結論から。日本舞踊の白塗りは、顔の色で「この人は誰か」を伝える約束事です。 白い顔は高貴な人・善人・美しい娘、茶色に近い肌色は侍や町人。真っ白に近いほど身分が高い役です。幕が開いたら、衣裳と一緒に顔の色を見てください。
日本舞踊では、なぜ顔を白く塗る?
顔の色で、役の身分と性格を観客に伝えるためです。白は「高貴」「善」「美しさ」を表す色として使われています。
衣裳付けの日本舞踊は、歌舞伎の化粧の約束事をほぼそのまま使います。歌舞伎用語案内は、地肌の色がその人物の役柄を示し、基本的に白い顔は善人や高貴な人だと説明しています。顔一面を白粉(おしろい)で均一に塗ることから「白塗り」と呼びます(歌舞伎用語案内「化粧と隈取り」)。
白が「高貴」の色になったのはなぜ?
日本には古くから顔を白く塗る伝統があり、白は高貴な色、色白は美人の条件とされてきたからです。
同じ解説によると、色白は「日に当たって労働することのない上流階級」の地位を表していました。そのため白塗りは、白の分量が多いほど、真っ白に近いほど高貴で、善の度合いが高いとされます。ただし悪人でも、身分の高い人は白塗りです(歌舞伎用語案内「化粧と隈取り」)。
電気の照明がなかった時代に、薄暗い舞台でも顔を見やすくするためだった、という説明もよく見かけます。ただしこれは出典によって扱いに幅があります。まずは「白は身分と美しさの色」と覚えておけば、客席では十分です。
白くない顔の役は、どんな人?
茶色に近い肌色の顔は、侍・町人・悪人などの役です。白粉に「砥の粉(とのこ)」という粉を混ぜて色を作ります。
客席での目安です。曲や流派、演出によって違うことがあります。
| 顔の色 | どんな役 | 例 |
|---|---|---|
| 真っ白 | お姫さま、美しい娘、高貴な人 | 『藤娘』『鷺娘』の娘 |
| 茶色に近い肌色 | 侍、町人、悪人 | 働く町の人の役 |
| 白地に赤や青の線(隈取り) | 力の強いヒーロー、悪の大物 | 荒事の役 |
歌舞伎用語案内の「女方の化粧の手順」にも、練り白粉を顔と襟に塗り、肌色にするときは砥の粉を混ぜるとあります(歌舞伎用語案内「女方の化粧の手順」)。同じ白粉でも、混ぜる量で役の暮らしぶりを描き分けているわけです。
白い顔の赤い線は、何を表す?
目元や頬の赤は表情を強く見せるため、隈取りの赤は勇ましさや怒りを表すためです。
目の周りに入れる赤や黒の化粧を「目張り(めはり)」といいます。白い顔に目元の赤が入ると、遠い席からでも目の動きが見えます。顔に太い線を描く「隈取り」では、赤い「紅隈(べにぐま)」が正義のヒーローの勇ましさ、血の滾りを表すと説明されています(歌舞伎用語案内「化粧と隈取り」)。隈取りは荒事と呼ばれる力強い役の化粧なので、娘や若い男の踊りでは白塗りに目張りの顔が中心です。
発表会でも、踊り手は白塗りにする?
役の衣裳とかつらで踊る「衣裳付け」なら、白塗りにするのが基本です。紋付や着流しで踊る「素踊り」では、薄めの化粧で出ることもあります。
素踊りはかつらを付けないことが多く、自分の髪に合わせた化粧で舞台に立ちます。舞台用化粧品の三善は、かつらを使わない場合の作り方を「日本化粧(自髪の化粧)」として白塗りとは別に案内しています(三善「日本化粧(自髪の化粧)」)。番組を見て、白塗り+かつらなら役を見る曲、薄化粧+紋付なら扇と間を見る曲、と切り替えると見やすくなります(素踊りの演目と化粧)。
このサイトで次に読む
- 化粧とかつら — 白塗りができるまで — 下地から白粉、目張り、かつらまでの順番
- 藤娘 — 真っ白な顔に藤の衣裳。白塗りの「美しい娘」を見る代表曲