結論から。日本舞踊の素踊り(すおどり)で踊られるのは、『松の緑』『鶴亀』『老松』のような「祝儀物」が中心です。化粧は「しない」のではなく、かつらを付けない前提で作るのが基本。白塗りにするかどうかは会によって幅があります。番組に「素踊り」とあったら、衣裳の華やかさではなく扇と間を見る曲だ、と思ってください。
日本舞踊の素踊りではどんな演目を踊る?
おめでたい詞章でできた祝儀物(しゅうぎもの)が中心です。和なびの解説でも「素踊りでしか踊らない演目は、多くの作品が御祝儀物」で、襲名披露や幕開き(その日の一番最初の演目)に置かれると説明されています(和なびブログ「素踊りっていったい何?」)。
祝儀物とは、文化デジタルライブラリーの分類で「国の平和や子孫の繁栄、五穀豊穣を祝うおめでたい詞章で作られた曲の踊り」とされるジャンルです(文化デジタルライブラリー「作品の分類」)。
よく素踊りで出会う曲は、だいたい次のとおりです。あくまで目安で、同じ曲を衣裳付けで踊る会もあります。
| 演目 | 音楽 | どんな曲か |
|---|---|---|
| 松の緑 | 長唄 | 短い祝儀物。名披露目の定番 |
| 鶴亀 | 長唄 | 鶴と亀が舞う、めでたさそのものの曲 |
| 老松 | 長唄 | 松を寿ぐ。松羽目の背景で踊られる |
| 島の千歳 | 長唄 | 白拍子が男装で舞う。烏帽子を付けることも |
| 廓八景 | 常磐津 | 吉原の風景を扇で描く男踊り |
| 京の四季 | 上方端唄 | 春夏秋冬を追う短い曲 |
なぜ祝儀物は素踊りで踊るの?
物語がなく、役の衣裳で説明すべき「誰」がいないからです。祝儀物は人物の筋を追う曲ではなく、めでたい言葉と扇の技を見せる曲なので、紋付袴・着流しで十分に成立します。
逆に『藤娘』『鷺娘』のように「娘」という役が主人公の曲は、衣裳付けで踊られるのが普通です。ただし発表会では、これらを素踊りで踊る番組もあります。衣裳を一式そろえる負担が大きいためで、上下の差ではありません。
日本舞踊の素踊りでは化粧をする?
します。ただし白塗りにするかどうかは会・流派・役によって幅があります。素踊りだから「すっぴんで出る」ということはありません。
素踊りの化粧が衣裳付けと違うのは、かつらを付けない前提で作る点です。舞台用化粧品の三善は、かつらを使わず自分の髪で舞台に立つ場合の方法を「日本化粧(自髪の化粧)」として、白塗りの化粧とは別に案内しています(三善「日本化粧(自髪の化粧)」)。素踊りや新舞踊など、かつらを使わない舞台で用いられる作り方です。
客席から見るときは、次のように覚えておくと迷いません。
- 白塗り+役のかつら+役の衣裳 → 衣裳付け
- 自分の髪を結い、化粧は薄め+紋付袴・着流し → 素踊り
- その中間(役のイメージだけ象徴的に映す) → 半素(はんす)
なお、素踊りの化粧は「こうしなければならない」と公開の資料で一本に決まっているものではありません。会によって白塗りに近い作りにすることもあります。
そもそも日本舞踊はなぜ白塗りをするの?
顔を一度「まっさら」にして、役の顔を作るためと説明されます。瑞鳳流は、白塗りの役割を踊り手自身の日常の顔をリセットすることに置き、江戸期の劇場がろうそくや自然光だった時代に、光を反射させて奥の客席まで表情を届ける実用があったと解説しています(瑞鳳流「日本舞踊の化粧(白塗り)の深い意味」)。
この理屈でいえば、素踊りが白塗りを必ずしも必要としないのは自然です。素踊りは役の顔を作って見せる形式ではなく、体と扇で役を示す形式だからです。
素踊りの演目は、どこを見ればいい?
扇が何に見立てられているかと、動きが止まる「間」を見てください。衣裳とかつらが情報を出さないぶん、この2つに見どころが集中します。
西川流は素踊りについて「色々なキャラクターを踊り分けないといけないので技量が試される」と説明しています(西川流「日本舞踊とは」)。祝儀物は歌詞が祝詞(のりと)に近く、意味を全部追う必要はありません。扇が松になり、波になり、盃になる——その変化だけ追えば、5分の曲は最後まで持ちます。
男女の見分けは、肘と足先です。肘が体に寄って足先が内向きなら女の役、肘を張って足先が外向きなら男の役。素踊りではこれが唯一の手がかりになります。
発表会で素踊りが続くのはなぜ?
おさらい会・勉強会は素踊りが基本の形式だからです。番組の最初に祝儀物の素踊りを置き、後半に衣裳付けの大きな曲を持ってくる構成が多く見られます。前半が地味に見えても、そういう設計だと思って構えてください。
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