結論から。日本舞踊の「クドキ」とは、曲の中で人物の心情を切々と踊る部分で、「作品の核」と呼ばれます。 音楽のテンポが落ち、袖や手ぬぐい、笠の紐を口にくわえるような所作が出てきたら、そこがクドキです。筋を追うのはこの部分だけで十分で、ほかの部分は姿やリズムを楽しめば大丈夫です。
日本舞踊のクドキとは、どんな部分?
クドキは、登場した人物が胸の内を打ち明けるように踊る部分です。国立劇場の文化デジタルライブラリーは「作品の核となる部分」とし、「女方の舞踊ではたいてい切ない女心が描写され、立役の舞踊では戦(いくさ)の様子を勇ましく踊ります」と説明しています(文化デジタルライブラリー「クドキ」)。
恋しい人への思い、捨てられた悔しさ、会えない寂しさ。物語らしい物語がない曲でも、クドキにだけは「この人は何を思っているか」がはっきり出ます。
「クドキ」はどういう意味? 口説くと関係ある?
漢字では「口説」と書き、「くどく」(くどくどと訴える)の名詞形です。
邦楽では、浄瑠璃や歌舞伎の音楽で「悲嘆、恋慕、恨み、懺悔などを内容とする部分」を指し、恋する相手に思いを訴えるものが多く、「テンポが遅く旋律が美しい」とされます(コトバンク「口説」)。今の「口説く」と同じく、相手に気持ちを訴えるのが元の意味です。踊りの用語はこの音楽の言葉をそのまま使っています。
クドキは曲のどのあたりに来る?
多くの曲では、人物が登場したあとの中盤に来ます。
日本舞踊(歌舞伎舞踊)の曲は「置(おき)→出端(では)→クドキ→踊り地→チラシ」の五段で進むのが基本形で、序・破・急でいえばクドキは「破」にあたります(文化デジタルライブラリー「歌舞伎舞踊の構成」)。『娘道成寺』のように、踊り地とクドキの順が入れ替わる曲もあります。
| 段 | ひとことで | 客席での見方 |
|---|---|---|
| 置 | 登場前の説明 | 唄で季節と場所を聞く |
| 出端 | 人物の登場 | 衣裳と持ち物で役を知る |
| クドキ | 心情を踊る核 | ここだけ筋を追う |
| 踊り地 | 華やかなリズムの踊り | 意味は追わず、手足の切れを楽しむ |
| チラシ | 元の話に戻って締め | 最初の小道具が戻るかを見る |
客席でクドキを見分ける合図は?
合図は3つです。音が遅くなる、動きが小さくなる、心を表す所作が出る。
- テンポが落ちる:三味線と唄がゆったりになり、唄の言葉がはっきり聞こえるようになります。
- 動きが静かになる:大きく足を踏んだり回ったりする動きが減り、首の傾きや目線、肩の落とし方といった細かい動きが中心になります。
- 心情の所作が出る:袖を口元に当てる、手ぬぐいの端をくわえる、笠の紐を噛む。悔しさや恥じらいを表す型で、これが見えたらほぼクドキです。
「急に眠くなりそうなほど静かになった」と感じたら、それがクドキの入口です。そこで目を凝らすと、曲がぐっと物語になります。
有名な演目のクドキは、どこを見ればいい?
演目ごとに「これを待つ」と決めておくと見逃しません。
- 『藤娘』:「男ごころの憎いのは」の唄で、塗り笠の紐を口にくわえて浮気な男心をなじります。五段の型が教科書どおりなので、クドキを覚えるのに最適な曲です。→ 藤娘
- 『娘道成寺』:「恋の手習い」と呼ばれるクドキで、手ぬぐいを使って恋心を踊ります。発表会ではこの部分だけを抜粋して踊ることもあります。
- 『汐汲』:恋人の形見の烏帽子と狩衣を脱いだあとのクドキで、残された女の思いが出ます。
このサイトで次に読む
- 五段の型 — 置・出・クドキ・踊り地・チラシ — 『藤娘』の動画で、クドキの場面に直接飛べます
- 藤娘 — 笠の紐をくわえるクドキがいちばんわかりやすい演目