結論から。日本舞踊の「当て振り」とは、歌詞の言葉をそのまま形や動作にする振りです。 「山」と唄えば手で山の形を作り、「酒」と唄えばお酌をして飲む。歌詞が古語で全部は聞き取れなくても、名詞を1つ拾ってその直後の手を見れば、客席でも見つけられます。
日本舞踊の当て振りとは、どんな振り?
当て振りは、詞章(歌詞)に出てくる言葉を、手や体の形でそのまま見せる振りです。
国立劇場の文化デジタルライブラリーは、当て振りを「詞章をそのままに表現する振り」とし、「『山』では手で山の形を作り、『酒』ではお酌をして飲む動作」と例を挙げています(文化デジタルライブラリー「当て振り」)。読み方は「あてぶり」。言葉に振りを「当てる」から、この名前です。
日本舞踊の振りは、全部が当て振り?
全部ではありません。振りには大きく3つの種類があり、当て振りはそのうちの1つです。
同じ解説では、歌舞伎舞踊の振りを「言葉そのものを表す振り」「言葉の雰囲気を伝える振り」「リズムに合わせた振り」に分けています(文化デジタルライブラリー「当て振り」)。意味を探しても見つからない振りがあるのは、残りの2種類だからです。
| 振りの種類 | どう見える | 客席での見方 |
|---|---|---|
| 当て振り | 歌詞の言葉を形にする | 名詞を聞いて、手の形を探す |
| 雰囲気の振り | 恥じらい・悲しみを型で示す | 首をかしげる、顔を伏せる、袖で顔を隠す |
| リズムの振り | 音に乗って踊る | 意味は追わず、手足の切れを楽しむ |
当て振りには、どんな例がある?
山・酒のような単純な形から、言葉遊びを形にする凝ったものまであります。演目でいうと次のあたりがわかりやすい例です。
- 『羽根の禿』:正月の吉原で禿(かむろ・遊女見習いの少女)が羽根つきをする曲。「ひい、ふう、みい」と数え唄が聞こえたら、羽子板で羽根をつく当て振りです(俺の日本舞踊「羽根の禿」)。→ 羽根の禿
- 『京の四季』:春の夜桜、夏の夕涼み、秋の紅葉、冬の雪見酒と、歌詞の季節に合わせて扇が桜・傘・盃になります。→ 京の四季
- 『関の扉』:文化デジタルライブラリーが当て振りの極端な例に挙げる曲です。「きやぼうすどん」と呼ばれる部分では、言葉に別の字を当て、木・矢・棒の形を作ったり臼を引いたり錠の形を作ったりと、言葉遊びを次々に形で見せます。→ 関の扉
当て振りと見立ては、どう違う?
当て振りは「歌詞の言葉を体で示す」こと、見立ては「扇や手ぬぐいを別の物に見せる」ことです。
たとえば「月」と唄われて扇をかざし月にする場面は、歌詞に合わせた当て振りであり、扇を月に見立ててもいます。両方が重なることが多いので、客席で区別できなくても困りません。「いま歌詞の何かを形にした」と気づければ十分です。扇の見立てについては日本舞踊の扇子は何を表す?で詳しく紹介しています。
客席で当て振りを見つけるには?
歌詞の名詞を1つ聞き取り、その直後の手の形を見てください。
- 名詞を先に3つ知っておく:パンフレットや演目解説で「月」「花」「舟」「酒」など歌詞の名詞を読んでおくと、耳が拾いやすくなります。
- ゆっくりした場面で探す:当て振りは心情を踊る「クドキ」に多く、テンポの速い「踊り地」は「詞章の内容よりも、リズムに合わせて踊る」部分です(文化デジタルライブラリー「踊り地」)。速い場面では意味を探さなくて大丈夫です。
- わからない振りは「気持ちの型」と考える:形が何にも見えないときは、雰囲気の振りかリズムの振りです。正解を当てるのが目的ではありません。
当て振りを1つ見つけると、そこから先は「振りが歌詞を教えてくれる」状態になり、聞き取れない古語の曲でも話が追えるようになります。
このサイトで次に読む
- 当て振りと見立て — 歌詞が振りになる — 「動物」の振りを3つ、2分半の動画で確かめられます
- 関の扉 — 言葉遊びを形にする、いちばん凝った当て振りがある曲