結論から。合方(あいかた)は、唄が止まって三味線を中心に演奏される長い間奏です。 唄の切れ目に入る短い「合の手(あいのて)」よりも長く、ひとつの主題を持ったまとまりがあり、長唄では大事な聴かせどころとされます。日本舞踊では、踊り手が足拍子や扇の技を見せる時間です。唄が急に止まっても、退屈な時間ではありません。
日本舞踊の合方とは?
合方は、唄と唄のあいだに入る、三味線の長い間奏のことです。デジタル大辞泉は「唄と唄との間をつなぐ、三味線の合いの手の特に長いもの。長唄に多い」と説明しています(コトバンク「合方」)。
鼓や笛などの鳴物(なりもの)が一緒に入ることも多く、厳密には「三味線だけ」とは限りません。客席では「唄い手が口を閉じて、楽器だけが鳴っている時間」と覚えておけば見分けられます。
合方と合の手はどう違う?
合の手は短い間奏、合方は長くてまとまった間奏です。文化デジタルライブラリーの歌舞伎事典は、合方を「短い間奏である合の手に比べると、長くて独立した内容をもって」いて、長唄では重要な聴かせどころだと説明しています(歌舞伎事典「合方」)。
日本大百科全書(ニッポニカ)によると、合方には唄い手を休ませる、歌詞の内容や気分を強める、三味線の聞かせ所になる、という役目があります。ただしブリタニカは「合の手」と同じ意味で使われることもあると付け加えており(コトバンク「合方」)、どこまでが合の手でどこからが合方か、客席で厳密に区別する必要はありません。
名前のついた合方にはどんなものがある?
合方には、表す情景にちなんだ名前がついているものがあります。 番組や解説書にこの名前が出てきたら、その曲の聞きどころの目印です。
辞典に挙がっている例は次のとおりです(コトバンク「合方」。どの辞典に載っている例かで、挙がる曲は少しずつ違います)。
| 合方の名前 | 使われる曲の例 | 何を表すか |
|---|---|---|
| 晒しの合方 | 『越後獅子』『晒女』 | 布を晒す(水にさらす)場面 |
| 佃の合方 | 『吾妻八景』 | 隅田川の佃あたりの情景 |
| 楽の合方 | 『鶴亀』 | 祝いの曲の聴きどころ |
| 拍子の合方 | 『供奴』『小鍛冶』 | 足拍子・槌の音のリズム |
| 雪の合方 | 雪の場面 | 寒さや雪の降るようす |
たとえば『越後獅子』は、最後に下駄をはいて踊る布晒しが最大の見どころとされます(コトバンク「越後獅子」)。長い布を波のように振る踊りを、晒しの合方が支えます。
合方のあいだは、どこを見ればいい?
踊り手の足と扇を見てください。 歌詞の説明がない分、リズムに乗った足拍子、扇の返し、体の向きの変え方など、踊りの技術がいちばんよく見える時間です。
見方のコツは3つです。
- 唄が止まった瞬間に気づく:唄い手が口を閉じたら合方の始まりです。ここから目を踊り手の足元に移します。
- 踊り手が止まったら地方(じかた)を見る:合方で踊り手が動かない曲もあります。そのときは舞台奥の三味線弾きの手元を見ると、演奏の聴かせどころがわかります。
- 唄が戻るところで区切りを感じる:合方が終わって唄が再び始まると、場面や気分が変わることが多いです。拍手をするなら、周りに合わせればそれで十分です。
『老松』のように筋のない祝儀物では、神舞合方・松風合方と呼ばれる合方が続き、そのあいだの扇の技が見どころになります(Wikipedia「老松(長唄)」))。
歌舞伎で聞く「合方」とは違うもの?
歌舞伎では、もう一つの意味でも合方と言います。 舞台下手の黒御簾(くろみす)の中で演奏する下座音楽のうち、唄を伴わない三味線の曲のことで、人物の出入りや幕の開け閉めなど、場面の雰囲気をつくります(歌舞伎事典「合方」)。
日本舞踊の会で「合方」と言えば、ほとんどは曲の途中の長い間奏のほうです。地方が舞台の上に並んで演奏する曲なら、目の前の三味線が合方を弾いていると考えてください。
このサイトで次に読む
- 合方・合いの手・掛け声 — 唄が止まったとき — 合方の聞き取り方と、日本舞踊の会での掛け声の扱い
- 越後獅子 — 晒しの合方に乗って、長い布を波のように振る曲